29 Nov 土を喰らう十二ヵ月 ジュリーの丁寧な料理教室
原作は、初和の文豪水上勉のエッセイを元にしたものです。水上らしき人物が、四季を背景に、長野の自然に囲まれた生活の中で、さまざまな料理をする。簡単にいってしまえば、それだけの話です。女性編集者(松たか子)との交流や、母(奈良岡朋子)の死のドラマなどもありますが、大したインパクトは残さない。それで2時間近く最後まで退屈させずに見せてしまうのは、すごい。まず沢田研二、ジュリーのカリスマ性。ジュリーは、コロナの犠牲者となった志村けんのピンチヒッターとして主演した「キネマの神様」もとても良かったですが、ここでも好演です。好演というか、演技以前の迫力というか、スクリーンで存在感が光ります。今でも、長丁場のクローズアップにも耐え得る顔ですね。ジュリーは淡々と料理するだけですが、食材の種を植え、成長をしたものを土から掘り起こしと、丁寧な料理教室です。そして、監督と脚本を兼ねた中江裕司の技量を挙げなければならない。監督兼脚本というのは、独りよがりになることもままありますが、これは題材が功を奏したと言えるのでは。ただ、料理の数々を見て、食べたいと思ったものは一品もないんですね。特に最初の方で、大好物のマッタケの煮物にさえ唾が溜まるようなことは起きませんでした。何故だろう。多分、監督はそういう意図で撮っているのではなく、料理のすることは生きることという、かなり哲学的な意図で取っているからではと愚行します。一つ、これはあり?と思ったのは、ジュリーが、ランプの灯で執筆しているシーンです。この時代にまさか思ったのですが、雰囲気狙いかな。もしかして水上勉は本当にランプの灯で執筆していたのかも知れない。
75点
No Comments